初期研修医
JUNIOR RESIDENT
ドクターインタービュー

日本の医療はガラパゴス。
世界に通用する医師を育成します

内科部長 八重樫 牧人

「生への執着」から医者を目指す

幼い頃に「死」という存在を知ってから、自分の人生に終わりがあることに漠然とした不安や恐怖を覚えました。避けられない死が訪れるまで、より良く生きるために何か自分にできることはないかと考え、医者を目指すようになりました。

青森での大学生時代は学生寮で生活をしていて、四畳半の2人部屋で6年間を過ごしました。友達はほとんど医学部以外の人で勉強を全くしない環境でしたが、狭い部屋で友達と遊んだり、飲んだりして非常に楽しかったことを覚えています。

私が学生だった当時は大学の外に出て臨床研修をすることは稀でしたが、早く患者さんの役に立ちたい、診療に当たりたいという思いで病院見学にまわっていました。インターネットも活用できない時代でしたので情報があまりない中、亀田総合病院で研修教育に携わっている凄腕のアメリカ人医師がいる、という話を聞いて研修先に選択することにしました。

論文を目の前の病気につなげることが画期的だった

亀田総合病院では当時常勤で勤務をしながら研修医教育を担当されていたGerald Stein先生の、ティーチングの幅にとにかく圧倒されました。とくに論文を実際に目の前の患者さんのために活用し、患者さんの幸せにつなげるという行為が当時は非常に画期的でした。

たとえば蜂窩織炎という疾患を持った患者さんがいらっしゃって、毎年4、5回ぐらい繰り返す方だったのですが、Stein先生が「マキ、この論文では足に水虫があれば、皮膚を壊して表皮からばい菌が入るから、蜂窩織炎の原因になる。水虫を治すと再発が減ると書いてあるから試してみろ」と言うんです。実際に試してみると、患者さんの蜂窩織炎での入院の回数が圧倒的に減りました。Stein先生の知識の幅や、患者さんへの貢献度が段違いだなと感動したことは忘れられません。

世界中の病院で通用する知見が広がった留学経験

研修時代にStein先生の影響を受けた私は、同じアメリカに身を置いて成長したい。それも研究ではなく臨床で留学をしたい、とアメリカへの留学を目指すことになりました。
しかし私は以前から英語が苦手だったので、必死に時間を使ってStein先生のカンファレンスに気合いで参加したり、テレビドラマの「ER」を見ながらシャドーイングの練習をしたりと、がむしゃらに勉強をしました。
ある程度英語を勉強した後は、いきなりアメリカの忙しい病院に行くのではなく、まず在沖縄米海軍病院で1年間シニアインターンを務め英語での診療に慣れていきました。基礎的なこともじっくり時間をかけて指導医の先生が丁寧に教えてくださり非常に良い経験となりました。

在沖縄米海軍病院でインターンとして知識を付けた後に、試験を受け渡米しました。留学中は英語の言葉の問題だけではなく、知識で分かっていても議論に負けてしまい、結局違う方針になってしまうということも何度も経験しましたし、アメリカの内科の患者さんの入院期は非常に短く回転も早いので、忙しく大変な日々を送りました。ですが症例をたくさん診てたくさん学びを得て、自分の成長にも繋がったことを実感していますし、人生の中でも素晴らしい経験になりました。

ジェネラルな内科医を育てる

当院の研修では、研修医が主体性を持って患者さんの診療に当たることが出来、症例数も他院に比べて豊富で、実践経験を積むことができます。一方でどのような病気の患者さんにはどのようなことをやるべきか、といった総論的な教育というのは今まで足りていなかった部分だと思います。
このようなジェネラルマインドは日本の医学部を出た段階では習得できるものではないですので、出来なくて当たり前です。教育者として研修医が幅広い領域を習得できるようになるまで、継続的にサポートすることが必要だと認識しています。

そこで私のレクチャーを、研修医の先生が自分のタブレットでもスマホでも好きな時間に好きな場所で見ることが出来る、オンデマンドの仕組みを作りました。徳洲会のeラーニング上に動画を蓄積していて、何度も見返すことが可能です。研修医だけではなく看護師やコメディカルの方も見ることが出来ます。
レクチャーの質が良いだけでなく、デジタルの力を使って時間や場所の壁を取り払って、今までの指導方法よりも身近にナレッジを共有できる点が強みです。
レクチャーの内容は基本的なこと、例えば電解質の補充などがありますが、なぜカリウムを補充するのか、どう補充するのかということも他職種の方と共通認識ができ、連携にもつながっています。

科学的根拠を前提にした教育

当院の研修医には、世界中どこに行っても通用するような知識を伝えています。日本の医療というのはガラパゴスで、病院によっても診療方針や治療方法が異なることがあります。
医療の中でも科学的根拠に基づいて、この治療方針が正しいとわかっていることって実はたくさんあります。海外ではジェネラルに患者さんの全身を診られるように教育を受け、患者さんの精神面や社会面も含めた診療トレーニングを受けますが、まだ日本では足りていないのです。

この治療はエビデンスがあるからやるべきだよね、逆にこの方法はエビデンスはあるけど、患者さんに害を与えたり無効だと証明されているから、やるべきではないよね。という理由や根拠をしっかり伝えます。またその中間で医者によって方法が異なることは、グレーなところだよ、と教えています。
このように科学的根拠を前提にした教育を行うので、患者さんのためになるような医療が全般的、総論的に習得出来るようになります。

より実践的なフィードバックの重要性

診療体制としては、今までは担当患者さん毎に主治医が変わっていましたが現在はチーム制をとっています。主に指導医と、2年目の研修医、1年目の研修医が2〜3名といった体制です。1年目の研修医が不在のときは2年目の先生がカバーするなど、当直明けでも帰りやすい、オフが取りやすい体制になっています。
さらに当院では入職後、1年次研修医全員が内科ローテーションからスタートします。基本的な診察能力、カルテの記載方法などを身につけてもらい、その後に他診療科のローテーションに移ります。基礎をしっかり内科で習得してから、他の科で必要な知識を派生的に学んでもらっています。

私は現在、週の後半は他院の教育回診にまわることが多いのですが、毎週前半の3日間は当院の研修医と必ず接して、全体回診の後にフィードバックのメールを流しています。
例えば研修医と一緒に患者さんを診に行ったところ、爪白癬が見つかりました。爪白癬に対して効果があると言われている塗り薬がありますが、実は20%しか効かず、内服薬だったら80%も効果がある。更に塗り薬は費用も高いんだよ、という論文をPDFで送ったりしています。デジタルの力を駆使してタイムリーにフィードバックをすることで、研修医も理解を深めることが出来ます。

考える力を身につけられるようにサポート

私が考える医者の本分的な役割は、患者さんを診察してアセスメントプランを自分で立てること。この患者さんはどのような病気でどのように治療をするか、というプランを自分で考えて組み立てることだと思っています。

毎朝、その日までに入院された患者さんの症例カンファレンスが行われますが、なるべく参加している研修医全員が話しに付いていけるように、さらに患者さんの病気を見逃すことなく自分で思考できるようにサポートをしています。電子カルテとは別のスクリーンに私の思考経路をリアルタイムで書いて、どのような考え方で診断や治療方針を導くことができるのか、研修医が理解できるようにしています。エキスパートの頭の中を見ることができるので、大人数で速度の速いカンファレンスでも内容の吸収率が上がります。

研修先を探している学生にメッセージ

教育といってももちろん改善点を伝えるだけでなく、たとえば研修医が頑張って患者さんを診察して、自分で考えて治療をしました、というときはしっかり褒めますし、逆にこの方が患者さんにとってより良い医療ができるよね、ということも率直にフィードバックをしています。
最近はポジティブフィードバック、ネガティブフィードバックとは言わずに、リインフォーシング(reinforcing)フィードバック=そのままでいいからその調子で続けてください、というフィードバックや、行動を変える=モディファイド(Modified)フィードバックと言いますが、その両方を提供しています。

研修先にどの病院を選ぶのか、悩んで当然だと思います。まずは自分の目で見て、合う合わないというのを経験すると良いのではないかと思います。日本の医療はガラパゴスですので、自分が今まで育った環境にはない部分も意識して視野に入れてみるとより自分に合った選択肢が見つかるのではないかな、と思います。
日本の未来は若い研修医たちにかかっています。頑張ってください。応援しています。

内科部長 八重樫 牧人

出身:東京都

経歴:1997年 弘前大学卒
1997年 亀田総合病院
1999年 在沖縄米軍海軍病院
2000年 セントルークス・ルーズベルト病院、コロンビア大学医学部
2003年 ニューヨーク州立大学ダウンステート校メディカルセンター
2005年 ピッツバーグ大学病院
2006年 亀田総合病院 総合診療・感染症科 医長
2010年 亀田総合病院 総合診療・感染症科 部長
2020年 東京医科歯科大学 総合診療科 臨床教授
2022年 千葉西総合病院 入職